私が88を送らなくなった理由

アマチュア無線

アマチュア無線の世界には、古くモールス通信の時代から受け継がれてきた「88」という略語があります。「Love and kisses(愛とキスを)」を意味し、かつては女性局(YL)や奥様(XYL)に対する親しみと敬意を込めたお別れの挨拶として、ごく自然に使われてきました。

私自身、無線の歴史や長年培われてきた伝統的な交信作法には深い愛着を持っています。しかし、現在私は、オンエアで交信相手が女性であったとしても、基本的に「88」を送ることはありません。

その最大の理由は、現代のグローバルな交信感覚、特にアメリカをはじめとする海外の無線コミュニティにおける意識の変化にあります。

現在のアメリカでは、この「88」に対するニュアンスが昔とは大きく変わってきています。例えば、アメリカ最大のネット掲示板であるRedditの無線コミュニティや、現地の若手ハムのブログなどでの議論を見てみると、その現状がよく分かります。

そこでは、「初対面や見知らぬ女性に対して、いきなり『愛とキスを』と送るのは、現代の感覚では過剰に馴れ馴れしく、時には不気味(creepy)だとすら受け取られかねない」という声が多数を占めているのです。70年代から80年代のCBラジオ全盛期には、女性へのリスペクトとして「88」を送る文化があったものの、現代の感覚では時代遅れ(Outdated)になりつつあります。

さらに、ダイバーシティが重視される現代において、「女性だから」という理由で特別な言葉を使うこと自体に疑問を投げかける声もあります。「男性であれ女性であれ、同じ一人の無線家なのだから、特別な扱いをするのではなく、標準的な挨拶である『73』を使うべきだ」という、よりフラットな関係性を望む意見がアメリカの若い世代を中心に増えているのが実情です。 加えて、アメリカ特有の事情として、ネットの世界で「88」という数字が一部のヘイトグループの隠語として悪用されてしまっている背景もあり、無用の誤解を避けるために公共の電波ではあえて使用を控える無線家もいます。

もちろん、「88」という伝統的な言葉そのものが悪いわけではありません。実際の奥様(XYL)に対してや、よほど気心の知れた長年の無線仲間など、しっかりとした信頼関係がすでに築けている間柄であれば、今でも素晴らしい親愛の表現として機能します。使う相手と場面を選ぶ、少し特別な言葉になったということでしょう。

一期一会の交信においては、性別で区別することなく、同じ電波を共有する一人の無線家として相手に敬意を払いたいと私は考えています。

だからこそ私は、誰に対しても等しく、そして誠実な標準の挨拶として「73(Best regards)」を送るようにしたのです。

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