非常通信と、eQSOの正直なところ

eQSO

熊本の地震のあと…

昨日の熊本の地震のあと、あるユーザーさんから「非常通信のために、チャンネルを空けておいてほしい」というお話が出ていました。

ありがたい話です。いざというときに役に立ちたいというのは、無線をやっている者なら誰でも持っている気持ちですから。

ただ、サーバーを預かっている側として、正直に書いておかないといけないことがあります。

うちのサーバー、そんな立派なものじゃないんです。

うちのサーバー、こんなもんです

以前、特小久留米レピーターの自宅側の様子という記事を書きました。ゲートウェイはヤフオクで安く買ったノートPC、サーバーはシャックの隣の部屋に置いた別のPC、と紹介しています。

ところが今は、その隣の部屋のサーバー機も止めてしまいました。ゲートウェイと同じノートPC一台で、両方動かしています。

つまり、ヤフオクで買った中古のノート一台に、全国のみなさんが乗っかっている状態です。

あのとき「24時間止まらないことが肝心です」と書きました。

書いたんですが、止まらない保証なんて、どこにもないんですよね。

電源は普通の部屋の普通のコンセントです。UPS、ありません。発電機、すぐ使えません。回線は一般家庭用の光で、冗長化なんて言葉とは無縁。管理者は私ひとりですから、旅行にでも出ていたら再起動すらできません。

久留米が停電したら、はい、そこで終わりです。ルーターが機嫌を損ねただけでも終わります。

災害に強いどころか、平常時ですらいつ落ちてもおかしくない。これ、謙遜じゃなくて、ただの事実です。

無線とVoIPは、そもそも別モノ

古くからのユーザーさんからも「このネットワークはインフラに頼るVoIPだから非常通信には向かない」というご指摘をいただきました。まったくそのとおりだと思います。

無線とVoIPは、性能の差じゃなくて、成り立ちからして別モノなんですよね。

無線は、双方に電源があって電波が届けば、それで通じます。途中に誰もいらない。自己完結しているから、最後の砦になれる。

eQSOはどうか。ゲートウェイのPC、宅内のONUとルーター、ISP、通信事業者の設備、携帯基地局、そしてうちのサーバー。この鎖のどこか一つが切れたら、はいアウトです。停電すれば止まる。回線が詰まれば止まる。私の家が被災しても、止まる。

そして災害のときには、その鎖のあちこちが、同時に切れます。

「サーバーは誰でも立てられる」の話

ここで、eQSOをよくご存じの方はこう思われるかもしれません。

「eQSOは中心となるサーバーが不要だ。eqsojpのサーバーが落ちても、誰かが別のサーバーを立てればいい」

そのとおりです。私もあの記事で「中心となるサーバーが不要だから、誰だってeQSOのネットワークをスタートできる」と書きました。これはeQSOの数少ない強みだと思っています。

ただ、それが効くのは平常時の話なんですね。

災害のさなかに、誰かが新しいサーバーを立てたとして、そのアドレスとポートを、全国のユーザーにどうやって伝えるんでしょうか。X? ブログ? 結局インターネットです。そしてそのインターネットが怪しいから困っている、という状況なわけで。

分散できることと、非常時に切り替えられることは、別の話なのです。

一番必要なときに、一番先に落ちる

携帯基地局の非常用バッテリーは、だいたい数時間しか持ちません。固定回線も、停電すれば宅内の機器が止まります。つまり、被災地こそが真っ先に圏外になるんです。

ここで、ちょっと考えてみてください。

もし被災地の方が、いまeQSOに接続できているとしたら。それは、その方の手元でインターネットが生きているということです。だったら電話も、LINEも、災害用伝言板も、全部使えるはずなんですよ。わざわざ「誰か聞いてるかもしれないチャンネル」を頼る理由が、ない。

eQSOが使える状況では、もっと確実な手段が使える。eQSOが必要になる状況では、eQSOが使えない。そういうことなんです。

「空けておく」ほうが危ないかも

で、ここが一番書いておきたかったところです。

チャンネルを空けておくこと自体は、別に害はありません。困るのは、それによって「ここは非常通信の窓口だ」という期待が生まれてしまうことです。

ここに流せば誰かが受けてくれるはず、と思う。でも実際には誰も聞いていない。あるいはサーバーが落ちている。気がついたときには、110番や119番という確実な手段に行くのが遅れている。

通じるかどうかわからない道に「非常用」の看板を掲げるのは、親切じゃなくて、危ない。

備えというのは、通信手段を増やすことじゃなくて、確実な手段を確実に選べる状態にしておくことだと思うんです。

頼るべきはこっち

110番・119番と自治体の窓口。防災行政無線と自治体の緊急情報。それから電池で動いて電波だけで届くラジオ、これが強い。アマチュア無線の非常通信は電波法にちゃんと位置づけがありますし、災害用伝言ダイヤル171もあります。

ここでアマチュア無線に触れておくと、こちらには電波法52条に非常通信という定めがあります。非常の事態で有線通信が使えないとき、免許状に書かれた目的の範囲を超えて運用してよい、という例外です。JARLには非常通信の実施要領がありますし、自治体がアマチュア局を「非常通信協力局」として委嘱している例もあります。受け手の仕組みが、一応できているわけです。

一方、特小や市民ラジオのような免許不要局には、そういう組織的な枠組みがありません。使ってはいけない、という話ではないんです。ただ、待ち構えている人がいない。ましてやインターネットを通るeQSOは、なおさらです。

でもそれは欠点じゃないんですよね。もともとそういう遊びだから、というだけの話でして。

※法律の細かいところは私も専門ではありません。間違いがあればご指摘いただけると助かります

じゃあ、我々に何ができるのか

「役に立てません」で終わらせたくもないので、身の丈に合った話を。

被災地から離れたところにいる者同士が、落ち着いて情報を交換する。「そちらは大丈夫でしたか」と、平時からのつながりで声をかけあう。報道に出てこない地域の様子を、生活者の言葉で聞く。このあたりは、eQSOがちゃんと得意なところです。

そして備えとして一番現実的なのは、チャンネルを空けることより、各自が電池で動くラジオと受信機、それに充電済みのバッテリーを用意しておくこと。eQSOの外側の話ですが、無線をやる者としては、こっちが本筋かなと。

ということで

私はこれからもこのサーバーを動かし続けます。ただし、あくまで遊びの場として。

自分のところの設備を実物より立派に見せて、誰かが命を預けてしまう。それだけは避けたいのです。運用者としての誠実さって、できることを大きく言うことじゃなくて、できないことを正直に言うことじゃないかなと。

今回お話をくださった方、そしてVoIPの弱さをきちんと指摘してくださったユーザーさんに、あらためてお礼を申し上げます。おかげで、自分の設備と役割をこうして見直すことができました。

被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。

それにしても、うちの設備の貧弱さをこれだけ堂々と書いたのは初めてです・・・

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