非常通信周波数、空けておくべきか

The Amateur Radio Emergency Service (ARES) アマチュア無線

Facebookでこんな話が

先日、アマチュア無線のグループでこんな投稿がありました。

熊本の地震もあったことだし、非常通信周波数の上下3〜5kHzは影響がないように空けておきませんか。今朝も7.048で運用されていましたが、如何なものでしょうか——。

コメントがずいぶん付いていまして、読んでいるうちに、これは自分でも一度整理しておかないといけないなと思いました。

前回、うちのeQSOサーバーの話を書いたばかりですし。

そもそも非常通信とは

非常通信というのは、送り手と受け手が揃って初めて成立するものだと思っています。

電波法52条4号の定義はこうです。地震や台風などの非常の事態が発生し、または発生するおそれがある場合で、有線通信を利用することができないか、これを利用することが著しく困難であるときに、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保、秩序の維持のために行われる無線通信。

想定されているのは、たとえば孤立した地域と災害対策本部といった、具体的な送り手と受け手のある通信ですよね。

非常通信周波数というのは、その通信が実際に発生したときに優先される周波数として意味を持つのだと理解しています。

空けるのと、聞くのは、別のこと

周波数を空けておくというのは、誰かが弱い電波でSOSを出すかもしれないから、と理解されているかもしれません。それだとしたら、空けておくというだけでは足りない気がします。

もし自分が孤立したとして、果たして非常通信周波数で呼べるでしょうか?

V/UHFなら呼出周波数で叫ぶでしょうし、HFなら一番強く入っている局にブレークをかける方が早い。私ならそうします。

空けること自体に反対ではありません。ただ、それだけでは非常通信の受け手の問題が残るんですよね。

このスレッドで、こういうご指摘をされた方がいました。使わないようにしようと言ってしまうと、ワッチもされなくなるおそれがある。しっかりワッチして、QSOのときはブレーキングタイムを長めに取り、1回の送信ターンを短くするのが正解ではないか。

これはそのとおりだと思いました。

空いているだけで誰も聞いていない周波数では、非常通信の役に立ちません。空けることと聞くことは、別のことなんですね。

我々の出番は、三番目

中央非常通信協議会という団体があるそうです。

電波法74条の2に基づく組織で、関係省庁、通信事業者、ライフライン企業などが構成員。JARLも名を連ねています。

ここの資料を見ると、国の非常通信ルートが三段構えになっていることがわかります。

まず防災行政無線。それが機能しない場合は、警察や電力会社など各機関が独自に持つ通信網。そのルートも途絶するような大規模災害のときに、アマチュア無線を含む多様な通信手段でルートを確保する。

つまり我々の出番は三番目なんです。

今回は一段目すら生きています。順番が回ってきていない、というのが正直なところではないでしょうか。

しかも、出番のときは合図が出るようです。東日本大震災のときは、発災の二日後に中央非常通信協議会長からJARLへ、被災地の通信確保のためアマチュア局を積極的に活用してほしいという要請文書が出ています。

今回、そういう要請が出たという話は無いようです。

非常通信、いつ終わり? も、決まっていました

私がいちばん気になっていたのは、仮に空けるとして、いつまで空けるのか。それを決めるのは誰なのか、という点でした。

これも書いてありました。無線局運用規則136条です。

非常通信の取扱を開始した後、有線通信の状態が復旧した場合は、すみやかにその取扱を停止しなければならない。

入口は52条4号の「有線通信が使えないか著しく困難」。出口は136条の「復旧したら速やかに停止」。

判断基準は、ちゃんとあるようです。

基準と、マナーが、混ざっている

ここでもうひとつ引っかかることがあります。

7.050や3.535という非常通信周波数は、JARLバンドプランで定められたものなんです。総務省告示のバンドプランには、非常通信周波数の記載がありません。

スレッドでも、こんな指摘がありました。4級や3級の試験にはJARLもIARUも出てこないし、非常通信周波数も出てこない。だから存在すら知らない人が多いのではないか。IARUの規定では±5kHzを空ける形になっているのだから、JARLでもハッキリ規定して周知すべきではないか、と。

まったくそのとおりだと思います。

基準があるものと、マナーに委ねられているものが混ざっている。 だから毎回、同じところで話が止まるのではないでしょうか。

ところで、4630kHzの話

ここで、ひとつ白状しておきます。

無線局運用規則の134条に、こういう条文があります。

非常の事態が発生したことを知つたその付近の無線電信局は、なるべく毎時の零分過ぎ及び三十分過ぎから各十分間A一A電波四、六三〇kHzによつて聴守しなければならない。

法令に聴守が書かれているのは、4630kHzの方なんですね。毎時0分過ぎと30分過ぎから、各10分間。

私は……やっていません。

いや、そもそも設備がありませんが。

我々は、条文に書いてある方はやらずに、バンドプランにしか書かれていない方でマナーを論じている。今回いちばん考えさせられたのは、実はここでした。

(4630kHzは3アマ以上で申請すれば免許される周波数です。CWですけどね)

ARESみたいなのが、あればいいのですが

前回の記事でも触れましたが、米国にはARRLのARESという仕組みがあります。訓練を重ね、行政とも協定を結んだうえで非常通信を担う組織です。

ああいうものが日本にもあればいいなと思うのですが、現実は難しそうです。

ただ、まったく素地がないわけでもありません。中央非常通信協議会は毎年、非常通信訓練を実施しています。自治体がアマチュア局を非常通信協力局として委嘱している例もあります。「非常通信確保のためのガイド・マニュアル」も、総務省の電波利用ホームページで誰でも読めます。自治体の担当者はこれに従って動くわけですから、我々も一度目を通しておいて損はないと思います。

個人のマナーを言い合うより、このあたりをみんなで確かめる方が、実りがありそうな気がしています。

ということで

今回、条文をいくつも読み直しました。読めば書いてあるんですよね。読んでいなかっただけで。

スレッドの中に、こんな引用をされている方がいました。IARUの運用手引に「実際に起きる衝突の原因のほとんどは、無知が原因」とある、と。

耳が痛いです。私のことです。

それにしても、還暦を過ぎてから法令の条文を読むはめになるとは思いませんでした・・・

(法令の解釈について、私は専門家ではありません。間違いがあればご指摘いただけると助かります)

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